前作は、享保20年、名君とされた第8代将軍吉宗の治世で、陣内孝則演じる とても難儀な性格の老中の策謀により、磐城の小藩(湯長谷藩一万五千石。)の殿と老職と馬廻に近習が、資金も時間も乏しい中、なんとか江戸までの旅を済ませる「参勤」の旅であった。
「リターンズ」は、その帰りの途、つまり「交代」の、相変わらず金はないけれど時間だけはたっぷりあるツアーのはずだった。しかし、難儀な老中が将軍の日光参詣のおかげで蟄居を解かれてまたぞろ蠢動をはじめたおかげで、一行は来たときと同じように大急ぎで国元に戻らねばならなくなる。リターンズには復路とこの老中の復活の二重の意味があったようである。
この夏、大ヒットした怪獣映画ほど人の口の端にも上らず、また、同時期に興行収入100億円に達したアニメ映画のように連日各メディアで騒がれたりはしないけれど、話の各所に仕掛けられた「罠」に観客はいちいちまんまと嵌まってはけらけら笑っていて、じつに和やかな感じで鑑賞することができた。殺陣も小気味よい感じなら、一行随一の太刀の遣い手(寺脇康文)の国元にいる口うるさくも勇敢な妻が富田靖子というところも面白かった。付言すれば、敵方の武芸者である渡辺裕之の壮年期の筋肉(入浴シーンがあった。)のぎらぎらしたところを削いだ感じもいいし、大岡越前を演じる古田新太の声の響き方も堂に入っていた。容赦なく時間が過ぎていく中で、いろんな俳優のそのときどきの旨みを映像の中に閉じ込めていくというのも映画に課せられたひとつの使命だと思った。
参勤といえば、時代がほぼ明治に移ろうとしていた時期の中山道の旅も近年ドラマ化されていた。