それは、自粛期間のはじめくらいのことで、夕食の主菜を宅配にて確保せむとして近所のファミリーレストランにデリバリーを頼んだ。うちは、まったく富裕とはいえないが、主婦たるわたしがほとほと病弱であるので、調理の外注率は必ずしも低くない。それにここは僻地なりといえども一応都市部で、ハンバーグとその付け合わせくらいなら2人前で1500円程度で配達してもらえる。
その日、ファミリーレストランからやってきたのは、とても小柄な女性で、タイトルでは「おねえさん」と表記しているけれども、おそらくは小学校低学年を頭に2人程度の子をもつと思しきお母さんだった。「おねえさん」は、配達予定時刻を少し過ぎたころ電話をかけてきて、いまここがどこであるのかわからないです、といった。折しも薄暮の頃。そして、この住宅の各棟の表記は、新しい外来者にとっては、敵愾心を丸出しにしているといっていいほど分かりづらい。なになにを右手に歩いてここの棟のエントランスを目指して下さい気をつけて、とナビゲートしながら、迷う人はおおいに迷うこの住宅の不思議に思いをはせていた。
結局、ハンバーグその他は、15分遅れで届いたけれども、そのファミリーレストラン、うちから歩いて3分のところにあるんだ、実は。