読もう読もうと思っていたのに、意識的にそれを止めるものがあって読まずにいたけれど、このほどやっと読めた。
姫野カオルコさんは、もう何十年も折に触れてその作品を読んできた作家のひとりだったけれど、この「事件」について、関係者とその周辺のひとりひとりに思いを巡らして、その心の陰影を綴る作業は、ほんとうに骨が折れただろうと想像する。まさに、労作といってよい。
入学するのが難しい大学とそうでもない大学のそれぞれに通学する学生、選ぶ立場と選ばれる立場のそれぞれに身を置く人間の、哀歓を描いた前半部と、急展開の後半部の対比がまぶしい。主人公の女性の、憧れと希望に輝いていた二十歳のいのちが、「事件」によって毀損され蹂躙されるさまの痛々しさ。それに触れたくないという思いこそが、冒頭に書いた、この本をわたしが読むのをためらっていた理由なのだが、その痛々しさも、実に詳細に描写されていた。読むのがこれだけきついのだから、書くのは相当つらい作業だっただろう。
ただ、ひとつだけ書いておくと、勉強ばかりしていたから人の感情の機微に疎くなりがちである、という定型的な言説は、どうなんだろう、現代でも妥当するのかな。