ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

『姥捨』

 太宰治の作品。青空文庫で読んだ。作家が、妻とふたり、情死するための小旅行に出る。感情の縺れ、親族らとの不和、それから、経済的な逼迫が、夫婦を追い詰めている。当座の生活費に、質屋でなけなしの衣類を差し出して借りた金を足して、ふたりは新宿に出る。睡眠薬を何か所かで分けて買う。それから、しばらく映画だのなんだの観て、食欲も充たして、いよいよ上野駅から夜行列車で存じ寄りの山奥の温泉地を目指す。

 早朝、その小さな宿のあるじ夫婦を叩き起こして、作家と妻は、しばらく布団をのべて眠る。宿の主は婿養子。老妻といっても、四十代半ばの妻は、作家たちが出掛けるときに、なにもないけれどもと自分で調えた真綿を呉れる。

 あちらはだめこちらならよいと死に場所を求めて、作家と妻は、長閑な早春の田舎をさまよう。作家は、妻に、死なない程度の薬を与える。そして、自分は、確実に死ねるよう、万全の手当てをして、薬を嚥んだ、はずなのだが。

 いつのまにか太宰治の亡くなった年齢を大きく追い越してしまって、いまだに読むたびにそんな旨い話がこの世にあるものかと軽い反撥を覚えるこの作家だが、その晩年においてさえ、年齢の上では、青年であった。いまは、この小さな温泉宿の老妻の気持ちで、この世への未練も家族への執着もたっぷり遺しつつ、死というものへの傾斜を自ら大きくしていく彼へのいたましさを感じるまでにわたしも十分に老いた。

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なのに、ラーメン大好きである。