ぴょん記

上古文学、外国語、数学、調理、編みもの、縫いもの、競争法

ふしぎな小道具がたくさん詰まった鞄

 ひとは谷和野さんの漫画を読むとき、ふたつの特徴に魅了されることだろう。ひとつめは、tipsや寓話性にあふれた台詞回しである。わたしたちは、ヴィクトリア時代に生きる小さな淑女ではなく、21世紀の海で藻掻くひら人であるけれども、それでも日々をやさしく軽やかに過ごせたらどんなにいいかという小さな夢をそれぞれに抱いている。谷和野さんの作品に溢れるやさしいことばは、そのような読者の琴線に触れる。

 もうひとつ、忘れてはならないのは、あまたのふしぎな小道具である。少年の被っていたぐるりの毛皮、夏の空の青の毛糸と取り替えたさまざまな動物の……、夜会服のレースの陰に縫い止めた小さなポケット。それらが、架け橋になって、読み手を等身大のまま、どこかに連れ去ってしまう。

 映像化するなら、蒼井優さん、黒木華さん、門脇麦さんがリレーでナレーションを務めても惜しくないくらい、その「原作」の中味は十分に豪奢である。