ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

香菜が少しだけ収穫された

【前回までのあらすじ】

 甲と妻である乙は、かつて、ともにシャンツァイ(別名パクチー、又はコリアンダー。)を忌避し、たとえば東京都内C区内にあった西安料理の店Xにおいて、店の看板料理のひとつである刀削麺に添えられてくるシャンツァイをそっと脇に避けるような具合であった。

 さて月日は流れ、乙は、ウェブサイト「ほぼ日」において、平野レミ氏のカレーレシピで強く勧められていたシャンツァイを戯れに試したところ、偶々これが大層気に入り、爾来、カレーライスに限らず、刀削麺や他の料理についてもシャンツァイを避けず、むしろ好んでこれを摂るようになった。それを見るにつけ、甲は、自分にはシャンツァイは縁のないものとの思いを新たにするのだった。

 ところが、さらに時日は過ぎて、今度は、甲が気紛れに家庭菜園にシャンツァイの一種を植え付けた。ホームセンターのハーブ苗売場に残っていたシャンツァイが乙の好物であることを思い出し、自分が食べないだけならば栽培するのも悪くはないかとの仏心を起こしたのがそもそもの契機であったのだが……。

 

 

 さて、プランターのシャンツァイに早くも花が付いた。草丈を伸ばして株を大きくするためには、この花芽は摘んだほうがよいというので、繊細な花と茎と葉がティースプーンに1杯ほど摘まれた。これをお昼の麻婆豆腐の椀に振ってみたところ、たちまち懐かしい香りが立った。最後にシャンツァイの載った刀削麺を食べたのは、日比谷のミッドタウンを出て山手線に近づいたところにあるお店だったろうか。大阪で金龍ラーメンを食べたように、どこに住んでも繰り返し食べるものというものはある。それが、日本橋のじゃんがららぁめんであったり、近所のCoCo壱番屋さんの5辛ロースとんかつ載せだったり、西安刀削麺であったり。紅茶とマドレーヌほどではなくとも、刀削麺を食べた店の構えを思い出すよすがによりによって苦手だったこのシャンツァイがなるとは、若い時分にはついぞ想像しなかったことだ。

 シャンツァイ、おいしい。安心して。かならずや一人で食べ尽くすよ。