ぴょん記

きょうからしばらく雨降る日々

志村貴子『娘の家出』/高橋ツトム『NeuN』第4巻

 ここに、父と母、お互い30歳を過ぎてからの見合い結婚で生まれた一人娘の美少女がいるとする。彼女は、現在、高校生。その小学校高学年のころ、父親が好きな人ができたといって家を出て、両親は離婚。母親と彼女は、わりあい裕福な母親の実家に身を寄せる。母親はパートタイムで働き始め、パート先の離婚経験者でもある社長と再婚する。その再婚前夜、美少女は、父親とその恋人の暮らすマンションへ家出する。父親の恋人の青年も、母親の再婚相手のおじさんも、ぽっちゃり体型の男を愛する彼女の好みど真ん中で、だから彼女はなおさら苦しむ。これが、オムニバス『娘の家出』全6巻の最初の話だ。

 男性を/も愛せることを秘匿して、女性と結婚した男が、のちに思い直して、妻ではない男性(妻が女性なのだからこの表現は明らかに誤っている)を選んだとき、映画や小説など、ものがたりの中では、妻はなまじの女に夫を奪われたときの何倍かは激しい感情に曝される。おそらく、ふつうの、女相手の心変わりよりも、侮辱された感じが強いのだろう。自分ではない誰か、もっといえば何かに愛情の対象を切り替えることに違いはないだろうに、男に見返られた妻たちは、より憤り、さらに強く夫を憎む。……こともあるだろうが、美少女の母親であるおばさんは違う。そこがすごい。

 高橋ツトム『NeuN』の4巻目は、Kindleで予約しておいたので、夜中に配信された。ドイツの第三帝国統治下、総統の遺伝上の子であるナンバリングされたこどもたちとその護衛(「壁」という。)らが助け合ったり殺し合ったりするものがたりで、その子のうちのひとりである主人公は、「同期する能力」を有している。それが、周囲の人や、ある種の状況を操る才能であることはいまの時点で分かっているけれども、ものがたりがどちらに転がるかは、依然、謎のままだ。