ぴょん記

食べる、遊ぶ、学ぶ。

餡パンは、ときどき偉大で

 わたしは柄が大きい割に計画的にエネルギー摂取を行うことが難しい体質で、だから家の外で日中と夜の大部分を過ごしていた時期には、バッグの中に餡パンやどら焼き、蜜柑や林檎の類を絶やさなかった。学校や仕事先の机や休息スペースでそういうのを広げているとたいてい誰か傍に寄ってくる。多くが自分よりもかなり年下であるその誰かに「おなかすいてますか?」と聞くと、7割くらいの確率でそうだという答えが返ってくる。よかったら、と、袋の中で二つに割ったパンや和菓子を差し出すと、ぱくっと食べてくれる。

 わたしは、自分のことも相手のこともあまり話したくない、そういう時期が長く続いていたから、それゆえに小さな食べ物を任意の誰かと半分ずつ食べる短い時間は貴重だった。このどら焼きは伊東の和菓子店のもので、とか、この蜜柑は駅から上がったところにある店で買った熊本のオーガニックで、とか、そういう罪のない話ばかりして。

 もう面影もだんだん朧になってしまったかつての同級生や同僚たち、いまはそれぞれの現場でそれぞれの役目を果たすことに心を砕いていることだろう。その毎日に小さな喜びを、それぞれの命に護りをと思う。

 

みんなのおやつ ちいさなレシピを33 (Hobonichi books)

みんなのおやつ ちいさなレシピを33 (Hobonichi books)

  • 作者:なかしましほ
  • 発売日: 2013/10/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)